田舎暮らしで私がずっと憧れていたこと。

窓を開け放った縁側でスイカを食べ、庭に向かって種を飛ばすこと。そのまま風鈴の音を聞きながらうたた寝すること。

誰もいない山奥の沢のほとりで、1日のんびりコーヒーを飲みながら本を読むこと。

原っぱを愛犬と走って、疲れたらゴローンして流れゆく白い雲を眺めること。

しかし実際は……ムリです。私には。

だって!虫が〜〜!

網戸もせず窓を開け放つなんて、想像するだけで恐怖です。真夏だった引っ越し当日、荷物の運び入れのため、1日窓やドアを開け放った結果。家は「虫サファリパーク」と化したのです。コオロギ、バッタ、カマキリ、蛾、トカゲ、ヤモリ、アマガエル。飛ぶ虫、這う虫、両生類…。何をしていても、常に生態の気配がします。しばらくは、寝室の蚊帳(かや)の中でしか心安らぐことができませんでした。

ところが。だんだん気づきます。虫ってカワイイ。害虫は別ですが、虫って、たいてい必死に逃げて、逃げ切れないとなると、いないフリします。なんて健気。今では「大丈夫だよ〜逃がしてあげるから♡」なんて話しかけています。

いやそもそも、上石津に後から来たのは私たちで、虫たちは先輩です。そしてもっとよく考えると、大自然の中では、人間はただの生き物の中の1種にすぎません。家の中だからと、テリトリーを主張するのはエゴに過ぎない。

虫だけはムリだった私がこんな考え方をするようになるなんて、自分でもびっくりです。

ある日。主人が仕事から帰ってくるなり「来てきて!」と騒いでいます。「ほら!ホタル!」消え入りそうな小さな灯りがフワフワと庭の上を漂っています。すぐに道に出て飛んで行ってしまい、二人で真っ暗な中しばらく追いかけましたが、スウっと消えてしまいました。

お互い忙しく過ごしていた私たちが、ホタルを追いかける日が来るなんてね。しみじみ、ほっこり。

虫に驚き、虫に癒され。時には害虫に怖い思いもしますが、「虫怖いあるある」に笑いながら共感してくれるご近所さんの明るさが、上石津の魅力のひとつなのです。